「障害者雇用=コスト」という現実とどう向き合うか?

 障害者を雇用することはコストですか?と聞かれてあなたはどう考えるだろうか?

 私は、日々企業に対して、障害者雇用のコンサルティングを行っている。その中で、残念ながら、ほとんどの企業はそうは言わなくても、コストであると考えている企業が大多数だと私は捉えている。

 それでは、なぜ各企業が障害者雇用をコストと捉えているのか?それでは、その状況を踏まえて、これから障害者雇用をどう考えるべきか、できる限り具体的に述べていきたい。

 それでは、企業が障害のある人を採用するきっかけ、なぜ採用するのかを考えてみよう。

1.雇用率達成のため
 これが一番多い理由だ。大多数の会社は、障害者雇用促進法に伴う雇用率達成のため採用活動を行っている。正直これがなければ「障害のある方を採用しない」と言っても残念ながら過言ではない。

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 こちらをご覧いただきたい。ここ数年の障害者雇用率を企業規模別に記載したものだ。

 特に注目に値するのが、青い色の1,000名以上の企業の急激な雇用率の上昇である。

 近年ここまで1,000名以上の企業が雇用率を上昇してきたのには、もちろん理由がある。それは、CSRやコンプライアンス意識の向上である。雇用率は、障害者雇用促進法に伴うもののため、「雇用率を達成していない=法律を守っていない」というようにみなされるのだ。

 とくに、1,000名以上の企業は、それなりに社会的に認知があったり、BtoC(対消費者)のビジネスだったりするため、ブランド、消費者の目を非常に気にする企業が多い。そのため、法律を守るという意識から雇用率が急激に上昇しているのである。(そういう意味で言うと、外資という理由はあるが、珍しく日本ロレアルの企業名公表はこの法則に当てはまらない。)

 ここから見ても、企業(特に1,000名以上の大手企業)が雇用率を目的に採用活動をしていることを理解していただけるだろう。しかし、ここには大きな理想と現実のギャップがある。

 そもそも障害者雇用の目的とは、企業が障害のある方を採用し、戦力として長く働くことで日本経済に貢献してもらうとともに、個人の自己実現を行うためだと私は考えている。しかし、このように企業は口に出しては言わないまでも、実は「雇用率を達成する=コンプライアンスを満たすため」に障害のある方を採用しているのである。つまり、障害者雇用はコンプライアンスを満たすための1つの要素であり、コストなのである。

※ちなみに、1,000名以下の企業の動向について合わせて記載をしておこう。1,000名以下の企業は、雇用率の達成よりも指導対象企業にならないことを考えている。(ちなみに、指導対象企業になる条件とは、次の3つの条件のうち1つでも満たす場合を言う。「1.雇用率の全国平均かつ5名以上不足している」「2.10名以上不足」「3.1名も採用していない」)

 特に1,000名以下の企業で多いのは、1名から4名不足で、指導対象にならない企業だ。その中の企業の多くは、BtoB(対企業)のビジネスモデルだったり、社員数がそこまで多くないため、コンプライアンス意識が低かったりするため、社名公表や指導対象にならない限り、採用活動を行わないという企業が多い。

 それは、残念ながら、障害者を受け入れるより、納付金(1名不足につき月間5万)を支払う方がコストが安い、ましだという考え方が、良い悪いは別として、事実としてあるからだ。だから、まだまだ全体で見ると、雇用率を達成している企業が50%を超えない理由がここにある。

 そういう意味で言うと、特に1,000名以下の企業は特に「障害者=コスト」という認識が強いのは確かである。(もちろん、こちらはあくまで傾向であり、全ての企業には当てはまりませんので悪しからず。)

2.事業の入札のため
 障害者雇用で何で入札が出てくるのか?と思った方もいらっしゃるかもしれない。実は、最近では、行政や企業間の入札において、雇用率を記載することが多くなっているようだ。これは前述の通り、コンプライアンス意識の高まりによる、法令順守を確認するためだ。

 これは一見すると「採用活動のきっかけになっているのであればよい事ではないか?」と思う人もいるかもしれない。これにより採用された方もいるだろう。しかし、障害のある方を採用したかったから、採用したのではない。入札に負けないために障害のある方を採用したのだ。つまり、ここにもコンプライアンスや入札のためのコストとしての障害者雇用の姿が浮き彫りになっている。

3.納付金を払わなくするため
 前述の通り、301名以上の企業は、1名不足につき、月間5万円支払うことになる。(2010年7月1日に法改正があり、201名以上の企業もこれに該当するようになる。ちなみに、2015年4月には、101名以上の企業もこれに該当するようになる)年間で換算すると60万だ。これをいかに少なくするか。それを考えて、障害のある方を採用する企業も多い。

 ここにも残念ながら、障害のある方を採用したいから採用するのではなく、コストを減らすための障害者雇用の姿が浮き彫りになる。

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 以上が大まかに分類した、企業が障害者雇用を行うきっかけ及び理由である。人間は痛みを避けて、快楽を得たい動物であると言う。この法則に当てはめると、雇用率の達成、入札、納付金を払わないという快楽のための障害者雇用は痛み=コストなのである。

 そして、採用したとしても、障害者といえば、早期退職、職場になじまない、仕事に対するモチベーションが低い、などの就業後のフォローでコストが掛かると思われている。採用したとしても、人事、採用部門としても、痛みが伴う可能性があるのだ。

 それでは、なぜ障害者雇用=コストという構造が生まれてしまったのか。それは、企業のせいでも、障害のある方のせいでもない。理由は、今までのハローワーク及び厚生労働省の障害者雇用に対する指導方針が、雇用率の改善だったからだ。最近はさすがに聞かなくなったが、数年前は、「雇用率を達成するために誰でもいいから採用してくれ」というハローワークの指導官もいたほどだ。

 合わせて、我々障害者雇用を支援している民間業者もその「雇用率の改善のための障害者雇用」を助長してきた一部だと私は考えている。企業が雇用率があるから採用するということに甘え、ただ単に企業に障害のある方を送り込むというビジネスを行ってきていた。もちろん民間業者があったからこそ入社に至った障害のある方もいらっしゃいますが、本気で障害のある方の採用する意義を伝えられてきたかというとはなはだ疑問がある。つまり、我々民間業者やハローワークが障害者を受け入れる意義をしっかりと企業に伝えることなく、数を追い求めた結果が今の状況なのだ。

 これは、余談になるが、この状況は不景気になり、やっと気づいたことだった。不況になり、企業が採用活動を絞ると、とたんに障害者雇用の門が狭くなった。この中で、どうやって障害のある方の支援を進めていくのか?そう考えたときに、障害者雇用の意義をしっかり企業に伝えられていなかったことに気づいた。もっと障害のある方を採用することのメリットをしっかり打ち出していれば、この不況下であっても、もっと障害のある方のサポートができるのではないか。そう感じています。

閑話休題。

 それでは、この状況の中で、企業はどのように障害者雇用に取り組むべきか。それは、社内において障害者雇用の妥協点を見つけることだと考えている。妥協点とは、現場、人事、経営陣のどこかに負担を強いるということ。

 現場は障害者といえども人材ですから、戦力となる人材を確保してほしいと考える。前述のように人事はパーセントを満たしたい。経営陣としてはコスト(障害者を採用することが結果としてコストが浮くのかどうか?もしくは利益をもたらすのかどうか?)を見ます。障害者雇用でおきがちな問題としてよく起こるのが、この現場、人事、経営陣の3者の利害がかみ合わないことだ。

 通常、健常者の採用を考えると、現場が必要とするから、人事が採用する。そして、活躍することで、売上げが上がる、コストが減るということになる。つまり、現場、人事、経営陣のこの3者がうまく回るもの。

 しかし、障害者雇用は、「障害者=できない だからコスト」というイメージから大体はスタートする。だから、どんなに人事が思いをもって取り組んでも、経営陣が「コスト負担が大きい」と考えたら、残念ながらその会社では障害者雇用が行われることはない。

 現場(戦力)、人事(雇用率)、経営陣(コスト)の3者の中でどこかが折れないと残念ながら、障害者雇用は進まない。具体的には、以下のことが考えられる。

 ・もちろんなるべく戦力となる人材を目指すが、現場にどこかで負担を強いて受け入れてもらう(だから、よく人事が現場に受入れを「お願いする」ということが頻繁に行われている)

 ・経営陣に「障害者雇用はコンプライアンスのためのコスト」と考えてもらい、受け入れの承認を得る

 ・これは最悪のケースだが、現場、経営陣の了解が得られないのであれば、残念ながら雇用率達成を目指さないという手段もある(ちなみに、今は不景気なのでここのケースが非常に多い)

 書いておいて、非常に残念なのですが、これが今の障害者雇用の現実なのです。そもそも採用の根本とは、企業が期待し、個人が期待に応えることで、お互いが成長することだと考えている。

 しかし、ことさら障害者雇用となると、前述の通り、企業は知らないことが理由で、「コスト」と考えられるケースが多い。そして、障害のある人で健常者と同じ経験・スキルを持ち、健常者と同様の仕事に対するマインドを持っている人は正直少ない。

 という意味で言うと、これから我々のような民間企業に求められるものは、今までの採用ツールだけではなく、企業には、障害のある人のことをしっかり知り、障害者雇用といえども戦力として期待することが一番大切であることに気づくこと。そして、障害のある人には、健常者と同様の仕事感・キャリア形成支援の一角を担っていくことだ。

 我々は、このような本質的問題の解決を求められていると私は考えている。今後はこの本質的問題解決にまい進していきたいと考えている。

 追伸:このエントリーの最後の方の「どのように障害者雇用に取り組むのか?」という課題に関しては、これから障害者雇用に取り組む会社のことがメインに書かれています。ただし、現在活動中の会社のほとんどがこの現場、人事、経営陣のどこかが妥協して行われていると考えています。

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以前にXoopsでお会いした事のあるヒロポンです。

最近、パフォーマンスマネジメントの研究課題の中で、障がい者雇用の部分にも多少触れています。日本の企業は、障がい者に対してだけでなく、いろいろな考えを持った人に対応出来ていませんね。ダイバーシティが進んでいないのは、年功序列でとっても古い考え方の人がトップ層でマネジメントを行う為と思います。

バブル経済が終わったのに、古い考え方にしがみついて、企業のパフォーマンスを落としている経営陣たちは困ったものです。ユニクロは障がいしゃ雇用率などでトップになっていますが、同社の業績パフォーマンスは非常に高く、障がい者雇用をコストだと思っているのは、古い経営者の思い込みですよね。ユニクロは「障がい者は戦力」と公言している通り、企業のパフォーマンスは、障がい者を雇用する事で上昇するはずです。ただ、それに気がつかないマネジメント層の頭の悪さ?!固さが問題かと思います。

長くなりました・・・。

ご無沙汰です。コメントありがとう。

パフォーマンスマネジメントの研究課題・・・。今、何やってるの?笑

それはさて置き、

> 日本の企業は、障がい者に対してだけでなく、いろいろな考えを持った人に対応出来ていませんね。

同感です。
また、障害者を採用する意義について記事を書こうと思っているのですが、本記事でも書いているように、経営の視点が、人を採用することで、
・売上げが上がるか?
・コスト削減になるか?
の視点しかないんですよね。

障害のある人を採用することで、誰しもが働きやすい職場になる。
そんな目に見えない、数字では現れない、心の部分やメリットをしっかり認識できる経営者が増えてほしいと思っていますし、そんな情報発信の必要性を感じています。

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お久しぶりです。
企業側のコスト意識、なるほどなあ、と思いました。
今、やっと障害のある人の「しごと支援」を始められたところです。
「しごと」とあえてひらがなでしてみて、さまざまな形態での障害者の働き方が認められるようにして行きたいと思っています。
特例子会社を立ち上げ、重度の知的障害者を雇用してきた経験のある人から「障害のある人が仕事をしやすいようにするということは、職場環境をよりよくし、ユニバーサルな就労につながる。」と言われたことが心に残っています。周りの環境整備ですよね。

ご無沙汰です。コメントありがとうございます。

「障害のある人が働きやすい会社は、誰しもが働きやすい」

そんなメッセージをぼくも出し続けられればと思っています。

はじめまして。私はカナダで労務管理の仕事をすべく、勉強している者です。調べ物をしていて、ひょっこりたどり着いて拝見しました。素晴らしいお仕事をされているのですね、とても興味深いです。またお邪魔させて頂きます。(ずいぶん前に書かれた記事へのコメントで、恐縮です。)

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わざわざコメントありがとうございます!

またのお越しをお待ちしております。

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矢辺卓哉(やべっち)

田舎で農業・電気通信工事士、東京で障害者雇用支援という田舎・東京を行き来する生活をしながら、エネルギーの地産地消、環境負荷の低い・企業だけに頼らない生き方を模索中。株式会社よりよく生きるプロジェクト代表取締役

「人生を味わいつくせる人を増やす」がミッション。

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