非営利株式会社の設立方法と留意点について

 会社の設立日が2011年8月8日。本日より登記簿謄本を取得できるということだったので、ドキドキしながら法務局に行ったところ、サクッと登記簿謄本を取得。これで、株式会社よりよく生きるプロジェクトも見事に立ち上がった訳です。

 facebookやTwitterでもご報告していましたが、株式会社よりよく生きるプロジェクトは、「非営利株式会社」というスタイルを取りました。この「非営利株式会社」については、起業を考えている人の中でも、営利のために事業をするのではないが、NPOよりもビジネスっぽく、スピード感を持ってやりたいという人からよくその内容について聞かれますし、そのような人たちが注目しているような印象を受けます。

 そういう人たちのために、またこれから起業を考える人たちのためにも、会社も立ち上がったし、その非営利株式会社の設立方法と留意点について、まとめて記載しておきたいと思います。

 非営利株式会社(非営利型株式会社とも呼ばれる)とは、「剰余金を株主に配当をせず、社会貢献している人や団体に寄付をする」ことを明示した株式会社と言われています。

 設立方法はあっさりするほど簡単です。会社設立時に作成する定款の「第5章 計算」の項目に下記のような内容で定款を作成するだけです。

(余剰金の配当)
代表取締役は、配当可能な剰余金の全額を社会貢献積立金として内部留保し、適宜な時期にその積立金を社会貢献活動に携わる人や団体に対して寄付するものとする。
(配当の序斥期間)
当会社が解散した場合(ただし、合併又は破産によって解散した場合を除く)における残余財産は、解散に関する株主総会における決議を経た上で、その一定額を社会貢献活動に携わる人や団体に対して寄付することができる。

 この定款の記載内容は、よりよく生きるプロジェクトの内容ですが、”非営利型株式会社”で検索すると一番上に出てくるユニコの森という会社は、下記のように定款を作っています。

(利益配当)
第26条 代表取締役は、決算期ごとに配当可能な利益の全額を、社会貢献積立金とする利益処分案を作成し、社会貢献積立金は学校法人又は地方公共団体に寄付するものとする。
(残余財産)
第27条 当会社が解散した場合(合併又は破産によって解散した場合を除く。)における残余財産は、解散のときにおける株主総会の決議を経て、その全額を社会貢献のために、学校法人又は地方公共団体に寄付するものとする。

 つまり、この会社は、寄付先を学校法人又は地方公共団体に寄付することを明確にしている訳ですね。よりよく生きるプロジェクトは、寄付先を明確にはしていませんが、寄付先をどこにするのか明確にしたいなど、必要があれば行政書士さんなどにご相談されることをオススメします。

 実は定款を作ったときは、これで問題なし!と思っていたのですが、たまたま調べていたら、こんなことがわかりました。ここから留意点に進みます。

会社法の105条に、こんな事項があります。

(株主の権利)
株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。
一  剰余金の配当を受ける権利
二  残余財産の分配を受ける権利
三  株主総会における議決権
2  株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。

 これはどういうことかというと、定款に定めていても、株主が剰余金を配当しろ!と言ったら配当しなくてはいけないということです。株主である以上、どんな定款を作っていても、会社法上、剰余金の配当を受ける権利が決められているということです。

 これは、私の解釈ですが、会社法の上では剰余金の配当を受ける権利があるだけであって、必ずしも配当しなければいけない訳ではない。だからこそ、定款で剰余金を配当しないことを明示しても問題ないのだと思います。

 これを知って、会社を運営していく上で注意をしなくてはいけないと私が思ったのは、株主が誰であるかということです。

 どういうことかと言うと、大きな投資やお金が必要なビジネスだと、投資、投機目的で様々な投資家が株主として関わってくる可能性が非常に高くなるでしょう。その場合、どんなに定款で「剰余金を配当しない」と明記して「社会のために事業をする!」と鼻息荒く事業を行っていたとしても、株主が配当を望めば応えなくてはいけないのです。

 一方で、コンサル業など、初期投資が少ないビジネスで、自己資本内で何とかなる会社や家族経営のような形態で、全員が顔を知っていたり、投資してくれた人が「配当をしないこと」に賛同(それでも完全とは言えませんが)してくれていたりすると、「非営利株式会社」と完全に言えるのでしょう。

 つまり、非営利株式会社は、「株主が誰か」によって、非営利株式会社である保障、担保がされると言うことです。コンサル業などの小資本、ソーシャルビジネスのようなスモールビジネスであれば、問題にはなりにくいでしょう。しかし、何かしらの設備投資など、大規模な投資が必要なビジネスは、「非営利株式会社」を名乗る場合は、注意した方がいいと思います。

 以上を踏まえると、「非営利株式会社」とは、法で定められたものではないことはお分かりいただけたと思います。では「非営利株式会社」とはなにか。私は、現状ではあくまで経営のスタンスや考え方、方針でしかないと思いました。

 というのも、結局のところ、定款に「剰余金を株主に配当しない」と記載しなくても、自己資本内で事が足りている企業(日本のほとんどの企業がこうだと思うし)が、社内で株主に配当しないと決めれば(しかも、ほとんどの会社が配当していないと思うし)「非営利株式会社」になり得るのです。

 そういう意味では、非営利株式会社とは、近頃のブラック企業と言われる会社に代表するような行き過ぎた営利主義への反発の一種の形なのだと思います。

 ですから、実は名刺に「非営利株式会社よりよく生きるプロジェクト」「株式会社よりよく生きるプロジェクト」のどちらを表記しようか今日のお昼に考えていたのですが、「株式会社よりよく生きるプロジェクト」にすることにしました。

 ”非営利”であるかどうか。それは、「誰のためにやっているのか」「何のためにやっているのか」「人の役に立っていること」。それを大切にしている会社の行動が最終的には指し示すのでしょう。

 非営利と謳えば、最近は共感していただける機会は多いと思います。ですから、非営利と明示することも大事だと思いますし、それを言うことで自分の身も引き締まるでしょう。しかし、それに行動が伴っていなければならない。現状の仕組み上では、「非営利株式会社」であるから素晴らしい訳ではないことに気付きました。

 結局、株式会社だろうがNPOだろうが、何を目指しているのかが大切で、株式会社、非営利株式会社、NPOというのはただの箱でしかない、というぐだぐだ且つありきたり且つ何が言いたいのかわからない締め方で終わろうと思います。

 ただ、非営利株式会社という「あれ!?」という目を引く言葉で、会社経営とは、何のため、誰のために事業を行うのかを問い直すよい機会になればいいと思っています。

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